1980年に設立された青葉仁会(あおはにかい)は、知的・身体障がい者の支援施設を拡充していきました。設立から、株式会社モンベルとの提携(1991年~)や地域連携を深め、飲食店や農園、石鹸や、木工、菓子などの工房を展開してきました。地域貢献と多様な就労支援を通じ、誰もが活躍できる社会を目指し、30年以上にわたり進化を続けています。
今回は本間氏、井西氏に「RIKUGOの森」にて、インタビューを行いました。
栽培視点の青葉仁会ならではのこだわりを教えてください
(本間)私たち青葉仁会が農作物の栽培において大切にしているのは、地元地域への社会貢献です。
青葉仁会本部がある中山間地域は、過疎高齢化が深刻で、耕作放棄地が年々増え続けています。手を加えなければ、どんどん荒れてしまい、最終的には山の一部に戻ってしまう農地がたくさんあります。
中山間地域に法人本部があり、社会課題である、農業の担い手不足が深刻な地域です。そんな地元地域の方々と共生社会の構築に向けて、協力、助け合いながら、耕作放棄地を田畑に再生し、里山の景観の維持にも努めています。
そして最も大切なことは、食料自給100%です。日本の食料自給率はとても低いです。世界情勢により、いつ何時、食料が途絶えるかわからない時代です。青葉仁会に関わる利用者さんや職員、その家族、地元地域の方々が、いざという時に食べていけるだけの食料を法人でなんとかしたいという強い思いがあります。
お米については、現在ようやく半分程度は自給できるようになりました。サツマイモをたくさん栽培しています。非常時に貯蔵が利いて栄養価も高いです。お米とサツマイモがあれば、多少の危機があっても1年くらいは乗り切れるかな、と考えています。
生産物の活用と社会貢献
(本間)青葉仁会では多種多様な野菜を作っていますが、そのほとんどは法人内のレストラン、カフェ、給食惣菜、食品加工事業で消費されています。
また、数年前から県内の福祉財団と連携して、1人親家庭に10種類程度の野菜が入った採れたて野菜セットをお届けする事業も行っています。毎回、お礼のや喜びのメールをいただき、とても励みになっています。
私達が栽培した野菜が、福祉財団の取り組みを通じて様zマナ人のもとに届き、さらにその野菜を生産した利用者さんの利益につながるという、大変すばらしい事業だと感じています。
事業拡大のきっかけと地域との共生
(本間)地元地域の中に青葉仁会が管理する農地が少しずつ増えていき、利用者さんが懸命に働く姿を見て、今では「ここの農地を青葉仁会で管理してくれないか」と、よく連絡があります。
地域の人たちとの関わりは「助け合い」だと思います。当初、私たちが現場で困ったことがあれば、駆け付けてくれたり、田んぼの水が抜けていれば入れておいてくれたり、逆に私たちがぬかるみにハマったトラクターなどを引き上げに駆け付けたり、土で埋まった水路を水が通るようにしたり、色々な場面で助け合いながら共生しているのではないかと思います。様々な地域で活動していますが、この地域の農業を支える仲間といった感じになってきました。
(井西)青葉仁会は、もともと無認可の福祉作業所としてスタートしました。その始まりは、障がいのある利用者さんの発達栽培(作業療法)の一環として、地元の農家さんから農地を借りてサツマイモを栽培したことでしたね。当時は、収益を上げて賃金を得るというよりは、作業する中で得られる視覚や触覚を使った作業を通じて、障がいの軽減につながるような療育的な効果を期待して、多くの作業が始められたんですよ。
そこからだんだんと仕事を通じて地域社会とつながっていくとか、障がいの有無に関わらず、誰もが社会の一員として働くことの重要性を認識するようになりました。今では、障がいの有無に関わらず、共に働く仲間として、それぞれの仕事に取り組んでいます。農業も、そうした思いからスタートした事業の一つです。
例えば、法人本部にあるブルーベリー畑も、実はもともと茶畑だったんです。地元の農家さんがご高齢で管理ができなくなり、荒れ放題になっていた土地でした。最初はそこを借りて茶の木を抜き、ブルーベリーを植えていましたが、やがて土地を買い取る形へと移行していきました。そうして少しずつ農地を増やし、今では畑と田んぼを合わせて11ヘクタールもの広さになりました。
地域に開かれた施設とコミュニケーション
(本間)地域の方々とのコミュニケーションを深めるため、夏祭りや秋のお祭りなどを定期的に開催しています。地域住民の皆さんにも積極的にご参加いただき、模擬店を出していただくこともあります。また夏の間はブルーベリー園を開園し、昨年は4000人を超える来場者がありました。福祉施設と知らずに来られる方もたくさんおられます。
(井西)青葉仁会の各事業所には飲食店が併設されているんです。一般的に福祉事業所というと、障がいのある方のためだけの施設というイメージが強いかもしれませんが、青葉仁会の事業所は、どれも一見すると障がい者施設だと気づかないほどなんです。おしゃれな飲食店が前面にあり、事業所の入り口が常に地域社会、つまり外向きに開かれていることが、大きな特徴だと考えています。
そのため、障がい者施設だと知らずにこれらの飲食店に来られるお客さんが多いですが、嬉しいことに皆さんそのサービスや雰囲気を気に入って、継続して足を運んでくださいます。
私たちが「障がいのある方々の人権擁護」や「福祉施設を地域に混ぜてください」といったことを言葉で強く訴えなくても、事業所全体の雰囲気を通じて、自然と地域社会の一員となっているような気がしますね。
見た目からデザイン設計されているということですね。
(井西)その通りです。理事長はよく「自分の思い通りになってない」と言いますが、それは理事長の中に明確なイメージがあるからこそ。そのイメージを少しずつ具体化しているんです。事業所の形や製品のデザインにも、そのビジョンが表れています。
個性を活かす作業の工夫と支援
(本間)利用者さんそれぞれの障がい特性や成育歴などを知ることが大切です。例えば、私自身もそうなんですが、「今日何時に仕事が終わるか」が分からないと不安で仕事が手につかないと思います。「今日は6時に終わる」と分かっているから、安心して働くことができます。
利用者さんの中には、自分で時間の区切りが分かる人もいますが、そうでない人もいます。そういう方には、やはり明確に終わりを示す必要があります。農作業で、私たちなら「ここまでやったら一旦終わりだな」とざっくり判断できますが、利用者さんの中にはそれが分からない方もいます。そういう状態だと安心して作業ができないので、「ここまでで終わり」という明確な目印(見通し)を立てるようにしています。その目印も言葉で理解される方もいれば、視覚的理解(旗を立てる等)が必要であったり、動作で理解される方もおられます。
野菜を植える作業一つにしても、野菜に合わせて植える間隔に印しの入った巻き尺を使用し、数字が理解できない利用者さんは印しを目印にします。数字が理解できる利用者さんは巻き尺に数字が入っていますので、それを目印にして植えつけます。
このように工夫することで、利用者さんは作業を理解し、安心して取り組むことができます。それぞれの特性に合った方法でサポートすることが、我々支援者に求められる専門性ではないかと思います。
「一労働者」として活躍できる環境
(井西)青葉仁会では、比較的重度の障がいのある多くの方々に支援を行っています。当施設に来られる方々には、様々な仕事ができる環境を提供しています。個々の障害特性や障害の程度、成長の度合いに合わせ、それぞれが活躍できるよう個別で支援しています。いろいろな種類の仕事があれば力を発揮できる場所があるんです。
このような環境があれば、障がいがあっても、当事業所にいる間は「障がい者」としてではなく、「一労働者」として活躍できる。そんな場所になれることを目指しているんですよ。
生産性の捉え方と成長の評価
青葉仁会が考える生産性は、ただ効率的に多くのものを作るだけではありません。例えば、ある利用者さんは一般的な作業に参加できないかもしれませんが、その場に来て座るだけでも、私たちはそれを一つの作業として捉えます。一般的にはそこに生産性がないと見られがちですが、その方々が他者の働く様子を見て、仕事の雰囲気や手順を理解し働くイメージを獲得していければ、それは一つの生産性として評価できると考えています。
「活きる場所」を見つけること、これが重要だと考えています。少しでも良いところを見つけたら、そこを伸ばせるような仕事を作っていく方が、より生産的ですよね。これは利用者さんの支援だけでなく、職員に対しても同じです。
例えば、手先が不器用な人に、正確で素早い作業を求めるのは難しいかもしれません。しかし、もしその人が周りに良く気が利くタイプであれば、別の形で支援を深めていくことができます。誰でも完璧にオールマイティな人はいませんからね。私自身も、今でも「これ、苦手だな」と感じることがありますよ。
本間さんは福祉の専門職の方なんですか?それとも農業をされてた方なんですか?
(本間)両方だと思います。福祉の資格も取得しています。また、学生時代から農業機械を操縦し農業に触れる機会が多々ありました。その両方の経験が今に活かされているのではないかと思います。
私自身、色々な経験をすることで、視野が広がったと感じています。農業だけをしていたら、普通の農家だったと思います。障害者福祉に携わり、私が考えもしなかったことを利用者さんが気づかせてくれるなど、学ぶことが本当に多いです。
利用者さんの中には「今日の野菜はなんだか色が悪くなっている」とか、「この状態だと病気かもしれない」など、細かな変化を察知して教えてくれる方もいます。職員が気づかないところを利用者さんが補ってくれているのです。今では利用者さんがいないと農業の現場が回りません。
農業は暑い、寒いなど過酷な時期もありますが、利用者さん、職員共に農業者としてお互いサポートしながら、進んでいきたいと考えています。また、福祉も農業も私にとって人生を豊かにしてくれる存在だと思います。
農福事業における人材確保の現状
農業を営む多くの農業法人が人材確保に苦慮しています。農福事業を行っている事業所は、人材を手放したくないところもあるようです。
(井西)私たちが提供する支援の中には企業就労をお手伝いするものもあり、今までに40名以上の方々を一般企業に送り出しました。ただ、過去には就職先でひどい目に遭って帰ってきた方もいらっしゃいます。企業の障害者雇用率の数字合わせのためだけに雇用されてしまうようなケースですね。
一方で、この法人の中で頑張ってこられた利用者さん達は大切な人材であるとも思っています。青葉仁会が所在する地域を支える大事な担い手ですからね。利用者さん達が一般就労を目指せるようになったときに、私たちの法人への就職も選択肢に入れてもらえるよう頑張っていきたいと思います。