リモートワークが全国的に定着しつつある今、20代~40代の現役世代から注目されている『半農半X』というライフスタイルをご存知でしょうか。
半農半Xとは、収入に重きを置くのではなく、人間らしい心の豊かさを追求していくライフスタイルのことを指しています。
本記事では、この半農半Xの言葉の成り立ちや注目されている理由、魅力、始める際に注意すべきポイントについてご紹介します。
半農半とは
半農半Xは、自分に必要な食料は自給自足で補いながら、残りの時間をやりたいことや、好きな仕事に費やすという生き方です。
コロナ禍を経た今、半農半Xのような精神的に安定した生活に注目が集まるようになりました。
言葉の成り立ち
半農半とは、半農半X研究所 塩見直紀氏が1990年代半ばから提案してきたライフスタイルのことです。半農半X(はんのうはんえっくす)という言葉には、半分は農業、半分はそれ以外の何か「X」という意味が含まれています。
例えば、「半農半サラリーマン」「半農半ライター」「半農半介護士」など、「X」にあたる部分は人それぞれです。
また、保育士・教師・調理師・法人運営など、今まで副業として選択肢に挙がることのなかった職業分野も「X」に当てはめることができるようになってきました。
兼業農家との違い
農林水産省の資料によると、兼業農家とは、世帯員の中に兼業従事者が1人以上いる農家のことを指します。
例えば、夫が農業、妻が別の仕事をしているケースは「兼業農家」です。
また、兼業農家の場合は、農業が収入源のひとつとして考えられており、販売目的で作物を育てていることが特徴です。
一方の、半農半Xの場合は、利益を確保するために農業をするのではなく、自分たちが食べるためだけに作物を育てていることが特徴となっています。
半農半Xが注目されている理由
なぜ、この半農半Xが20代~40代の現役世代にとって魅力的なのでしょうか。
それは、テレワークが主流になる中で「わざわざ都心に暮らす必要がない」と考える人が増え、田園回帰の傾向が強まってきたことが大きな要因と言えます。
自分たちが食べる分だけの農業で食を得て、必要なものだけを満たす小さな暮らしをしながら、積極的に自分の好きなことや、やりたいことをして社会と関わっていく。
つまり、物やお金で心を満たすのではなく、人間らしい暮らしの中で心の豊かさを求めていく、こういった人々の増加により、このライフスタイルが注目を集めているのです。
また、世の中の風潮として、さまざまな場面での多様性が認められるようになったことで、改めて自身の幸福について考える人が増え、それについて寛容する人や企業が増えました。
こういった社会的な動きも、半農半Xが注目される一因だと言えます。
半農半Xの魅力
半農半Xの魅力は、お金という概念にとらわれることなく、自分が生きたい人生を自由に求められるところにあります。
またそういった行動が、ひいては地域の課題解決にも繋がるため、社会の役に立ちたいという“奉仕の精神”が満たされる一面も魅力のひとつです。
QOLの向上
QOL(クオリティ オブ ライフ)、つまり「生活の質」や「人生の質」の向上が、半農半Xにおいての最も大きな魅力の一つだと言えるでしょう。
生活費を稼ぐためだけに生きるのではなく、自分の好きなことや大切なことに時間を割き、生活とのバランスをとりながら活き活きと暮らす。
また、自分の得意なことで社会と関わって人の役に立ちたい、自分の転職を見つけたいという人も多いでしょう。
こういったことで生まれる心の豊かさが、QOLの向上につながっていきます。
生活コストの削減
自分の食べる分を自分でつくることができれば食費を抑えることができます。
また自然の恵みが溢れる環境下で暮らすのであれば、工夫次第で生活コストは大幅に抑えることができるでしょう。
また、こういった生活コストをかけない暮らしの中では、お金への執着が薄れていくものです。
お金への執着を手放し、フラットな精神状態で自分の中の人生の目的を改めて見つめなおすことも、この半農半Xの魅力であると言えます。
地域課題の解決
日本の高齢化は大きな社会問題となっていますが、特に地域においてはそれが顕著に表れています。
「地域のために何かしたい」「地方創生につながることがしたい」といった若者が増えることで、高齢者だけでは解決できなかった地域の課題を解決に導くことができます。
また、金銭的・時間的理由で都心では子どもを持つ余裕がなかったが、半農半Xというライフスタイルに変わることで子どもが欲しいと考えるようになるケースも多いです。
リモートワークで首都圏並みの収入がありながら、地方に住むことが選択肢として生まれ、若者が地方に住みやすくなる環境が整い始めました。
そういった意味でも、半農半Xは地域の課題解決の一手になると言えるでしょう。
半農半Xを始める前に気を付けたい事
半農半Xというライフスタイルはとても魅力的な生き方ですが、もちろん良い面ばかりではありません。半分農業、半分自分のやりたいことを行う半農半Xは、どちらの関係者からも「片手間」のイメージを持たれることが多く、風当たりがきつくなる可能性があります。
特に地方に住む場合は、周りの専業農家からの信頼を得ることが難しかったり、地域の地主から土地を借りることが困難であったり、昨今のニュースでも取り上げられていますがトラブルが付き物です。
また、農業は天候や環境に大きく左右されるため、台風や異常気象による大雨・干ばつなどが起きた場合は農作物が被害にあう可能性もあります。
こういったリスクに加えて、半農半Xは、収益と自分のやりたいことを切り離して行うライフスタイルであるため「もっと収入を上げたい」「お金が欲しい」と考えている方には不向きな生き方です。
半農半Xは必ず成功するというものではありません。
家族がいる場合はよく話し合い、全員がメリットデメリットについて理解したうえで始められると良いでしょう。
まとめ
20代~40代の現役世代から注目されている半農半Xというライフスタイルは、自分に必要な食料は自給自足で補いながら、残りの時間をやりたいことや、好きな仕事に費やすという生き方です。
半農半Xの魅力としてQOLの向上、生活コストの削減、地域の課題解決などのメリットがある一方、地域に受け入れられにくい、収入が上がりにくい、自然災害等の影響を受けるなどのデメリットも存在することを忘れてはいけません。
とはいえ、農業従事者が急激に減少する今の日本にとって、この「半農半X」が重要な存在になる可能性はとても高く、先行者利益を手にすることができる大きなチャンスであることは間違いありません。
メリットデメリットをよく理解したうえで、この半農半Xの波に乗るかどうかを判断できると良いでしょう。