人工知能=AIという言葉がかなり一般的になってきました。お掃除ロボットやスマートスピーカー、スマホの音声認識など、日常生活の中のさまざまなシチュエーションで導入されており、ヒトの力だけでは難しかった課題を次々と解決しています。このAIを農業に導入する価値はどのようなところにあるのでしょうか。農業従事者の減少や高齢化、後継者不足、重労働・危険というイメージがつきまとうなど、農業は多種多様な課題を抱えています。この課題を具体的に振り返りながら、農業とAIが融合した場合にもたらされるメリット、また導入するうえで弊害となるデメリットなど、農業とAIについて整理して紹介しましょう。
農業が抱えている問題点とは
農業が抱える問題点にはさまざまな要因が考えられますが、おもに農業に従事するために必要なスキルの獲得、農業人口の減少、後継者不足、高齢化、農業が持つ負のイメージなどが関連しています。それぞれを詳しく見ていきましょう。
従事者のスキルに支えられた農業
古くから農業は、農業従事者による経験や勘に支えられてきました。気温や降水量の気候変動を把握したり、生育状況で適切な肥料や農薬を投与したりと、従事者が習得したスキルに依存する構造になっています。長年の農作業の中でヒトからヒトへと継承される技術と言えるものでした。
従事者の高齢化や継承者不足
平成22年(2010年)では約260万人だった農業就業人口は平成30年(2018年)に約175万人と大幅に減少。そのうちの65歳以上の人数をみると、2010年では農業就業人口全体のうち160.5万人であり全体の61.5%でしたが、2018年には68.4%を占めるまでに上昇しています。高齢化が顕著に表れており、若年層の農業従事者となる後継者・継承者が少なく、年々不足していく傾向が顕著になっています。
農業就業人口
単位:万人、歳
平成22年 | 27年 | 28年 | 29年 | 30年 | |
農業就業人口 | 260.6 | 209.7 | 192.2 | 181.6 | 175.3 |
うち65歳以上 | 160.5 | 133.1 | 125.4 | 120.7 | 120.0 |
平均年齢 | 65.8 | 66.4 | 66.8 | 66.7 | 66.8 |
出典:農林水産省(農林業センサス、農業構造動態調査(農林水産省統計部))
新規参入が難しい農業
農業をはじめるには農地と農具が不可欠。しかし農地を確保することは難しく、費用も高額になります。加えて農具は中古でそろえても100万円以上が必要。さらに土作りに1年から3年、その後農作物が育ってからでないと収益が発生しないという根本的な構造を抱えています。想定していた品質に届いていなかったり、災害が発生したりすれば収益は減少します。初期投資が高額なうえ、収益を得るまでに時間がかかるということが新規参入を阻んでいるのです。
就農1年目の平均費用と自己資金
単位:万円
機械施設資金と営農資金の費用合計 | 自己資金 | 差額 | 自己資金 | 就農1年目農産物売上高 | 資金を借りた割合(%) |
721 | 488 | -234 | 265 | 341 | 46 |
重労働・危険というイメージと現実
農業は、季節や時期によって労働時間が長くなったり、無理な姿勢で作業したりなど過酷な労働環境というイメージがつきまといます。また、農業をマスコミが取り上げるタイミングといえば災害発生時のニュースもあるため「農業は危険なのではないか」という印象を抱かれやすいという側面も少なくありません。
AIが農業のあり方を変える
AIを導入することによって、どのように農業が変わるのでしょうか? そもそもAIとは何なのか、AIを導入することで得られる変革について確認しましょう。
そもそもAIとは
AIは「Artificial Intelligence」の略で、人工知能と呼ばれています。反復的な学習や積み重ねたデータなど、過去の知見から統計を出すことで正解を導き出す方式や、計算式を駆使することで推論していく方式などさまざまなAIが存在します。
農業に求められるAI
農作業に求められるAIは農業従事者の経験や勘、知識に依存していた部分の置き換えがメインとなるでしょう。広大な農地をドローンで撮影したり、ビニールハウス内を可動式の収穫機に搭載されたカメラで撮影したりすることで得た画像データを、AIに入力して解析します。色や形などの情報を元に育成状況を見極め、収穫時期を判断したり、病害虫を早期発見したりなど、ヒトの経験や勘で頼っていた農作物の状況判断にAIを活用するという考え方です。
AIによる収穫予測と農地の最適化
農業分野のDX(デジタルトランスフォーメーション)には、AIと組み合わせるIoT(Internet of Things)の導入が不可欠です。画像センサー、赤外線センター、サーモグラフィー、湿度センサー、サウンドセンサーなどから農作地の情報を取り込み、クラウドに送信して、その情報をAIが解析します。これによって収穫予測や潅水のタイミングの最適化が実現します。
自動化によって変革が起こる
例えば、宮崎県におけるピーマンの収穫時期は通常10月〜翌年の6月までとなり、かなり長い期間栽培されます。毎日の収穫にAIを導入することで収穫可能なピーマンを判別。ロボットによって自動収穫することで、人手不足を補い労力を大幅に削減することが可能になります。
農業にAIを導入するメリット・デメリット
農業にAIを導入することでさまざまな課題を解決できると考えられますが、本当に良いことばかりなのでしょうか。農業とAIの融合が注目される理由と、なぜ農業へのAI導入が進まないのか、メリットとデメリットから考えてみましょう。
メリット
IoTなどを通して得た画像や気温、湿度などのさまざまな情報をAIで解析することで、収穫に最適なタイミングを見極めたり、適切な潅水などを行ったりすることが可能です。さらにAIが解析したデータを収穫ロボットと連動することで生産効率の向上が進み、農作業そのものの省力化や無駄の排除による低コスト化を実現します。
デメリット
AIを農業に導入することの弊害のひとつは、導入コストの高さです。また、畑や農地、栽培する作物によって必要とされる情報が異なり、標準化が難しいことも大きな課題となっています。データが表す意味を理解する人材の確保も困難であることがAI導入に二の足を踏ませています。
不可能な夢ではなく可能な目標を
せっかくAIを農業に導入するなら「コストに見合った成果がほしい」と考えることは至極当然です。しかし、これがスマート農業の導入を阻害する要因のひとつになっています。まずは目の前の課題解決のために、気軽にチャレンジできるソリューションが不可欠です。AGRIST(アグリスト)株式会社が開発したAIを搭載した自動収穫ロボットは、収穫量のすべてをまかなうのではなく、20%を収穫するための「最低限の機能」に絞り込んでいます。その結果として、従来のAI付き収穫ロボットではなし得なかった低価格を可能にしました。実現不可能な夢を追うのではなく、実現可能な目標を定めることが農業にとってのAIを身近な存在にする好例といえるでしょう。
AIが変える農業の未来
農業にAIを導入するためには導入コストの問題や、圃場ごとのデータの標準化が難しいことや、ITに強い人材確保などの問題があります。しかし、農地や作物の状況を見える化した情報によって収穫をサポートしたり、潅水を補助したりなど、高齢化や人手不足といった農業が抱える課題を解決することが可能になります。農業とAIの融合は、農業の未来に可能性を広げてくれることに間違いないでしょう。