私たちが生きていくためになくてはならない一次産業「農業」は変革の岐路に立っています。
かつては「3K(きつい・汚い・稼げない)」と言われていた農業ですが、近年農業に興味を持つ若者の参入が少しずつ増えてきました。とはいえ、数字的に見ると農家の高齢化と後継者問題は変わらず存在し続けています。
この記事では、この先の展開やITを活用した農業の普及、発展・転換の方法など、農業の未来についてお伝えしていきます。
10年後の農業の展開
半分は農業、半分は自分のやりたいことをする「半農半X」など、新しいスタイルの農業が若者を中心に広まりを見せていますが、10年後の農業の展開は一体どうなっているのでしょうか。
農業従事者の減少や農地の集約・大規模化に焦点を当ててみましょう。
農業従事者の減少
戦後の農地解放によって農業従事者は一気に増加しましたが、現在では最も多いときの10分の1程度にまで減少しています。その一因として考えられるのは、農業従事者の高齢化です。農林水産省のデータによると2015年の農家の平均年齢は67.1歳、2022年には68.4歳と高齢化に歯止めがかからない状態が続いています。
そういった背景をうけ、2010年には167.9万戸あった農家経営体は2020年には107.6万戸にまで減少しており、このペースが続くと2030年には約40万戸になると予想されています。
農地の集約と大規模化
農業の変革を促す一手として進められている運動のひとつに、地方自治体が主体となって行っている農地の集約・大規模化が挙げられます。
従来、日本の農業は「零細分散錯圃(れいさいぶんさんさくほ)」という形がとられており、一つの農家を一か所にまとめるのではなく分散させることで自然災害などから被害を避けてきました。
ところが近年、農業にも省力化や効率化、国際競争力が求められるようになったため、小規模農家・中規模農家は零細分散錯圃を解消し、地方自治体の農地集約・大規模化に応じるケースが増えています。こういった農地の集約により、10年後にはより農作業のオートメーション化やスマート農業が推進されていると考えられます。
スマート農業の普及
スマート農業とは、AIやICT(情報通信技術)、IoT(Internet of Things)などの最先端技術を取り入れた新スタイルの農業のことを指します。
スマート農業の導入は、日本の農業におけるさまざまな課題を解決する手段として大きな注目を集めています。
生産性の向上
ICTを活用することで過去のデータに基づいた栽培を行えるようになるため、作物の成長を最大限に引き出す農業が可能になります。また、集積されているデータをAIが自動で解析し、病害虫の発生を予想したり生産量を予測したりすることもできます。
このように、データに基づいた農業を行うことにより、経験とは関係なく誰でも品質の高い農作物をつくることができるため生産性を向上させることができるようになります。
省力化
GPSや自動制御装置を掲載した無人運転可能な自動運転トラクターや、播種・施種、農薬散布を行う農業用ドローンなどの活用により、今まで大人数で行っていた農作業が省人化されます。
また、ビニールハウスにはICTなどの技術を活用し環境制御システムを取り入れることで、適切な温度設定での管理ができるようになり、必要以上の燃料消費を抑えることが可能となります。こういった先端技術を取り入れることによって、今後より省力化が実現すると言われています。
都市型農業の発展
都市型農業とは、東京や大阪など大都市の市街化区域(都市計画として開発を進める区域)で農業を行い、農作物を生産・流通させることを指します。
各地で地産地消の取り組みが進められている中、生産緑地法等の改正に伴う規制緩和や都市農地賃借法の制定も後押しするかたちで、現在、都市型農業は大きな注目を集めています。
農林水産省が発表している都市型農業の6つの機能は以下の通りです。
・新鮮な農作物の供給
消費者が求める新鮮な農作物の供給、「食」と「農」に関する情報提供等の役割
・国土・環境の保全
都市の緑としての雨水の保水、地下水の涵養、生物の保護等に資する役割
・農業体験・交流活動の場
都市住民や学童の農業体験・交流、ふれあいの場及び農産物直売所での農産物販売等を通じた生産者と消費者の交流の役割
・都市住民の農業への理解の醸成
身近に存在する都市農業を通じて都市住民の農業への理解を醸成する役割
・心安らぐ緑地空間
緑地空間や水辺空間を提供し、都市住民の生活に安らぎや潤いをもたらす役割
・災害時の防災空間
火災時における延焼の防止や地震時における避難場所、仮設住宅建設用地等のための防災空間としての役割
出典:農林水産省「都市農業について」より
このようにさまざまな役割を持つ都市型農業ですが、従来の農法に比べるとスペースが少なく大量生産が難しいというデメリットもありますが、IoTなどの先端技術をうまく活用することで今後さらに発展していく分野であると予想されています。
持続可能な農業への転換
冒頭でお伝えした通り、日本の農業従事者の減少に歯止めをかけることは難しく、今後も衰退傾向にあると考えられます。
そのため、担い手の確保や育成、また担い手への農地集約化等を包括的に推進していく取り組みが必要です。加えて、経営感覚を持った人材が農業分野でも活躍できるように、各自治体が各種支援を行ったり企業の農業参入を後押したりする動きが重要となるでしょう。
また、農業による環境負荷も忘れてはいけない農業課題です。
持続可能な農業にしていくためにも、経済性や生産性に留意しながら環境負荷の低減を図り、より持続性の高い農法へと転換していかなくてはいけません。
また、海外市場での需要拡大も視野に入れると、日本での減化学肥料・化学農薬による栽培や有機農業の技術向上は急務と言えるでしょう。
日本では2022年に「みどりの食料システム法」を施工し、農林漁業・食品産業の持続的発展と環境保全の両立を目指しています。
さまざまな方向性からのアプローチを行うことで、将来にわたって持続可能な農業へと転換する。まさに今が農業の『転換期』であると考えられます。
まとめ
少子高齢化や世界的情勢の影響を受け、日本の命綱でもある大事な一次産業「農業」は危機的状況に差し掛かっており、これを打破するための本格的な取り組みがさまざまな分野で進められています。
AIやICT、IoTなどの最先端技術を取り入れた新スタイルのスマート農業や都市型農業の発展など、持続不可能だと心配された農業分野を、持続可能システムに転換させることが非常に重要です。
こういったシフトチェンジを軽やかに行うことで生産性を向上、省力化により農業の未来は明るいものになると言えるでしょう。
以上が、これからの農業についての解説記事でした。
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