仕事は、私にとって「生きがい」です。
ライスワーク(食べるための仕事)とライフワーク(生きるための仕事)を対立させるのではなく、人を大切にする哲学=論語と、成果で応える実務=算盤を両手で抱える。最近の「働き方」をめぐる議論(高市早苗さんの発言や評価をめぐる空気)を横目に見ながら、私はこの古くて新しいフレームに改めて立ち返っています。
『論語』の手触り
論語はスローガンではありません。
礼(相手への敬意)、信(約束に生きる)、仁(弱さに寄り添うやさしさ)。この3つは、チームの体温を上げます。人は安心して挑戦できるとき、もっともよく学び、伸びる。ワークライフバランスは“甘え”ではなく、挑戦の土台です。睡眠・回復・家族との時間は、明日の意思決定を研ぎ澄ますための投資。人をすり減らして勝つビジネスは、長く続きません。
『算盤』の切れ味
一方で、算盤は冷静です。
KPI、コスト、キャッシュ、スピード。ここで嘘をつかない。“頑張り”ではなく“再現性”で語る。数字が厳しい日にこそ、私たちは静かに改善を積み上げる。1%の効率化を365回やることが、最短距離で未来を変えます。算盤は、人の努力を仕組みに変える技術です。
週1の実験──“ルール”ではなく“約束”
私は「ルール」を増やしたくありません。
代わりに、週に一度の小さな実験を会社と自分への約束として置いています。仮説を立てて、できるだけ小さく、早く、やってみる。結果が良くても悪くても、事実を短く残す。これを繰り返すと、不思議なことが起きます。
• チームの会話が過去の愚痴から、次の仮説に変わる。
• 会議が承認の場から、学びの共有に変わる。
• そして、ブランドの重さ=信用が静かに増えていく。
名付けるなら、“やった感”から“やった事実”へ。それが私たちのリズムです。
フィールドからラボへ、ラボから社会へ
AGRISTの現場は、土の匂いがします。ロボット、AI、センサー。テクノロジーはあくまで人の営みを支える道具です。現場で得たデータをラボで咀嚼し、再び現場に返す。論語が人の尊厳を守り、算盤が仕組みを磨く。
1haの改善を、世界の一次産業の標準に翻訳する——その翻訳作業こそ、私たちの仕事です。
ワークライフバランスという“設計”
バランスは、「時間の等分」ではありません。
集中・回復・学習の設計です。朝の静かな90分で未来の仕事を進め、日中は現場で泥をかぶり、夜は回復に振り切る。**脳の化学(セロトニン/ドーパミン/テストステロン)**は、小さな成功体験の反復で健やかに回る。だから、大声の根性論より、静かな勝ちパターンをひとつずつ。
この指に、とまってほしい人へ
私たちは、論語と算盤を両手に持てる人と一緒に働きたい。
肩書きより、学ぶ速さと誠実さ。
完璧より、昨日より1%良くする気持ち。
派手な成果より、週1の実験ログ。
地方から、世界の食を変える旅に出るなら、優しさと強さの両方が必要です。
終わりに——高市さんの議論を超えて
働き方は、誰かの“正解”に従うものではなく、私たちが**日々つくっていく“設計”**です。
論語は人を守り、算盤は未来を連れてくる。
休むことを恐れず、深く集中し、静かに学び続ける。
週1の小さな実験を、今日からまた始めましょう。
それが、人にやさしく、数字に強い会社のつくり方であり、日本の経済を前へ押し出すいちばん確かな方法だと、私は信じています。