社会を変える挑戦をするために必要な行動とマインドとは?シリコンバレーで起業家精神を学び、帰国後10年以上にわたって「社会課題をビジネスで解決する」を実践してきた斎藤潤一の哲学に迫るインタビューシリーズをお送りします。
vol.2のキーワードは「混ざる」。仲間を集めて大きな成果につなげる“巻き込み力”の秘訣を公開します。
「ONE SUMMIT 2024 in 宮崎」は、農業、林業、水産業など、第一次産業に関わる多様なステークホルダーが一同に集まり、活発な議論を繰り広げた画期的なイベントでした。
イベント成功の鍵となったのは、「混ぜる」というコンセプトのもと、異なる分野の人々が自由に意見交換できる場を創出したこと。心理的安全性を確保し、参加者同士の信頼関係を築くことで、活発な議論が生まれ、新たなアイデアが創出されました。
齋藤さんは、「予定調和を壊す」ことの重要性を強調し、多様な意見を尊重する社会の必要性を訴えています。また、農業は生産者だけでなく、消費者も関わる身近なものであるという考えを提唱し、農業に対する従来の固定観念を打ち破ろうとしています。
このサミットは、単なるイベントにとどまらず、農業の未来を創るための重要な一歩となりました。今後は、この成功を足掛かりに、より多くの地域で同様の取り組みが広がり、日本の農業が大きく変わっていくことが期待されます。
POINT
- 異なる分野の人々とつながり、新たな価値を生み出す
- 固定観念にとらわれず、多様な意見を受け入れる
- 行動を起こし、社会に貢献する
このまとめは、齋藤さんのインタビューを基に、イベントの意義、成功の要因、そして今後の展望を簡潔にまとめたものです。
コンセプトは「混ぜる」
――齋藤さんはスマート農業で未来を変える仲間づくりにも積極的です。その活動の一環として、2024年8月20日に開催された公民連携スタートアップサミット「ONE SUMMIT 2024 in 宮崎」にも登壇し、大変盛り上がったそうですね。
はい。産業界、官公庁、大学、金融、農業…とさまざまな分野から第一産業の実践者や関係者が集まり、約250人が混ざり合う場となりました。このイベントは、僕が代表理事を務める一般社団法人ローカルスタートアップ協会が主催したもので、僕も一次産業に携わる農業従事者の一人として参加したんです。
主催するうえでこだわったコンセプトは「混ぜる」です。まさにそんな場になったという手応えがありますね。
――「混ぜる」とは、ユニークなコンセプトですね。この言葉に込めた想いを教えてください。
日本では農業、林業、水産業を「第一次産業」とまとめて呼びますが、各産業同士は意外にも連携していないんです。だから混ざり合って農業について語り合う場を作りたい、そんな考えから「混ぜる」をコンセプトにしました。
水産業や林業の方たちは、農業のことを「よく知らないから」と積極的に語ろうとしません。詳しいからこそ気軽に知っていると言えない、畑を耕している人しか農業を語る資格がないと思っているのでしょう。
けれど本来、農業はとても身近なものなんですよ。生産者、消費者問わず「美味しく食べて、感謝してみんなで育むもの」が農業だと僕は思っています。つまり、誰もが当事者になれるのが「農業」であるはずなんです。
だから「自分には農業を語る資格はない」と思っている皆さんの誤解を解くことに時間をかけました。イベントタイトルにもあえて「第一産業」とは掲げずに「公民連携スタートアップサミット」として、みんなで第一次産業を語り合おうと呼びかけることを大事にしました。
予定調和を壊したい
――実際に「ONE SUMMIT 2024 in 宮崎」を開催してみて、どうでしたか?
さまざまな業界から集まった約250人が混ざり合った結果、いい意味で“まとまらなかった”のが良かったと思っています。
――まとまらないことが良かった? どういうことでしょうか。
一般的には、「議論はまとまるほうがいい」という固定観念がありますよね。でも、予定調和から出た解は、往々にして予定調和の解によって覆されます。だから「わかりやすくまとめようとしないで」と当日のオープニングセッションで皆さんに僕からお伝えしていました。
「予定調和を壊していく」というのは、僕が経営者として日ごろから大切にしている哲学でもあります。
うまくいっているときは悲観的に考えますし、反対にうまくいっていないときこそ楽観的に考えることを意識しています。
――どうすれば予定調和を壊すことができるのでしょうか?
あえて逆のことを言うこと、ですね。
でもそうすると、日本では「かき乱す」と言われてしまうんです。日本社会は多様性よりも協調性を大事にしますから、異なる意見は歓迎されない。場をかき乱すと捉えられてしまいがちです。
でも、アメリカやヨーロッパのように多様性を尊重する社会では、異なる意見を言うことは新たな視点から議論を深める効果つながるものとして歓迎されるんですよ。
――実際にサミットでまとまらずに混ざり合った結果、どんなことが起きたのでしょうか?
当日は参加者たちが自由に議論する「分科会」という場を用意したのですが、この分科会が信じられないほど盛り上がったんです!
分科会は不動産、金融などテーマごとに分け、そこには議論を円滑に進めるための進行役を置きました。参加者は好きなところで議論に参加することができたのですが、いわゆるビッグゲストと呼ばれる登壇者によるトークセッションに引けをとらないくらい活気があって会場の熱気は最高潮に。見ていて震えましたね。
――熱気溢れる場となったのですね! 場づくりのために意識したことはありますか?
心理的安全性の確保です。20世紀の経済学者・シュンペーターが提唱したように、イノベーションは異種のものをかけ合わせ、化学反応を起こすことで生まれるものです。ただし、心理的安全性のない場所では人は混ざりたがらない。だから完全招待制にすることで、「この会場にいる人たちとは混ざっても安心だ」と感じてもらえるように意識しました。
そのうえで、「誰を呼ぶか」も重要でした。第1回目の開催だったこともあり、どのような場になるか予想がつかなかったゲスト登壇者もいたことでしょう。そんな中でも「詳細はよくわからないけれど、潤ちゃんが企画したイベントなら間違いなく共感できるはずだから、ぜひ行くよ!」と、二つ返事で引き受けてくれる方が多くいたことはうれしかったですね。信頼をベースにつながる方々に集まってもらった結果、温かい空気でありながら忖度のない意見が飛び交う場となりました。初日の懇親会の参加率はなんと8割を超えたんですよ。
――「もっと交流したい」と参加者が思える時間になっていたということですね。逆に、潤一さんがイベントに招待される側になるときには、どんな基準で参加を決めますか?
呼んでくれた人が誰か、というのはもちろん重要です。それから、テーマに面白さを感じるか、でしょうか。
鹿児島を舞台に多分野のリーダーが集まって未来の地球社会について議論する「薩摩会議」(主催:NPO法人薩摩リーダーシップSELF)というイベントに呼んでいただいたのですが、僕に割り当てられたテーマセッションは「農業」かと思いきや「ローカル鉄道」(笑)。意外でしょう? 農業とは関係のないテーマであっても僕ならばなんとかするだろうと思っての誘いだと思います。「その無茶ぶりにも僕は応えてみせるぞ」とかえってやる気が出ましたね。
今、「無茶ぶり」と言いましたが、よく考えてみたら、グローバルな多様性社会のものさしで考えれば、これは「無茶ぶり」とは言わないのかもしれませんよね。例えば多民族国家であるアメリカでは、異なる宗教や価値観の人同士が隣り合うことも珍しくありません。そんな多様性を前提としたコミュニティにおいては、異なる価値観だからといって会話や議論を避けることはしないでしょう。異なるバックグラウンドの人と議論する免疫がないと、想定外の問いに対して「無茶ぶり」と感じてしまうだけのように思います。
インタビュー/宮本恵理子 構成/夏野稜子、宮本恵理子