農業従事者の平均年齢が68歳となり、農業分野の高齢化や後継者不足が大きな社会問題となっています。
更に消費者ニーズに的確に対応した価値を創造し提供する農業(FaaS(Farming as a Service))への変革が必要となり、今までのように生産だけに重きを置いた営農では生き残るのが困難な時代に入りました。
こうした状況を打破すべく、農林水産省が「農業DX構想」と呼ばれる農業界の諸問題の解決を図るための指南書を公開しました。
その内容は、
農業DXとは「AI技術や、IoT、農業用ロボットなどのデジタル技術を駆使して農業経営の効率化を目指し、持続可能性の追求や消費者が必要とする食料を安定的に供給すること」
とされています。
今回は農業DXについての解説と、AGRISTが実際に取り組んだ事例をご紹介します。
農業DXとは
農業DXについての概要と、目的・背景について解説します。
そもそもDXとは?
そもそもDXとは、Digital(デジタル)Transformation(トランスフォーメーション)の略のことで、”デジタルによる変容“の意味です。(英語圏ではtrans-をXと略して使うことから、DXと呼ばれます。)
DXを簡潔に説明すると、 “IT化を通じて業務革新を行い従来よりも効率的に事業を行い利益を出す”ということです。
農業DX構想とは
『農業DX構想』とは2021年に農林水産省が発表した食と農の未来を切り拓くための考えをまとめたものです。
高齢化や労働力不足が進む中、
- 新技術の導入による省力化・効率化
- 消費者(市場)に評価される価値を生み出し提供する
『農業DX構想』の中では上記の重要性を説いています。
経済産業省が2018年9月に公表したDXレポートの中で、2025年までにDXが実現できない場合、最大12兆円の経済損失が生じる可能性があると警鐘を鳴らしています。(2025年の崖問題)
特に農業分野では、他の分野よりも高齢化が加速度的に進んでおり、労働人口の減少が顕著です。
人手不足解消のためにも、DX化が必須となっています。
農業DXの目的と背景
農林水産省は農業DXの目的を、
本計画(2020 年(令和2年)3月閣議決定)では、「デジタル技術を活用したデータ駆動型の農
業経営により、消費者の需要に的確に対応した価値を創造・提供できる農業」(FaaS(Farming
as a Service))と呼ぶこととし、その実現が農業 DX の目的であるとした。
引用:農業DX構想
上記のように定義しています。
農業DXは単なるデジタル化だけでなく、農作物の需給バランスを意識した営農や、ブランディングによる新たな価値の提供が必要となり、いわゆる市場化に対応することの重要性を説いています。
人々が必要とする食料を安定的に供給し農業が持続性を担保しながらこの役割を果たすには、
- デジタル技術の活用による生産性の高い営農
- 消費者の需要をデータで捉え農作物を提供
この2つを達成することが重要で農業DXの最大の目的となっています。
スマート農業との違い
農林水産省によると、
スマート農業とは、ロボット技術や情報通信技術(ICT)を活用して、省力化・精密化や高品質生産を実現する等を推進している新たな農業のことです。
https://www.maff.go.jp/j/heya/sodan/17009/02.html
スマート農業は農業DXに含まれる概念として考えられており、下記のように解釈されています。
農業DXにおける課題
官民で農業DXが推奨されていますが、前述した通り農業従事者の平均年齢は68歳となっており、なかなか浸透していない実情があります。
- デジタル技術に対する抵抗感
- 年齢により投資マインドになりにくい
- リターンが得られるほどの規模がない
農業DXを進めるにあたって上記のような課題があります。
個人の力だけでDXを推し進めるのは非常に難しく、DX化に成功している農家は補助金を上手く活用しています。(参考:農林水産省 補助事業参加者の公募)
農業DXの3つのメリット
農業DXの3つのメリットに関して解説します。
生産性の向上
センサーやモニタリングシステムを活用し、作物の成長やビニールハウス内の環境データをリアルタイムで収集し栽培に活かすことが可能です。作業効率の改善や、農作物の収量増、肥料や水などの資源の効率的な利用ができ、売り上げのアップと経費削減が可能です。
また、データを使った営農により、オペレーションの最適化・省力化にも期待ができます。
再現性の向上
今までは農家の経験や勘に頼っていた営農を、農業DXではデータに基づいた営農に変えることが可能です。
農業は習熟するまでに時間を要し、植物の生育状態を見定めることが非常に難しいとされています。さらに、病気や害虫の発見も難しく、農業は経験に頼らざるを得ない構造となっていました。
しかしデジタル技術の発展により、営農の可視化が可能になり、誰でも熟練農家と同じような営農が可能になりつつあります。
AGRISTでは、ピーマンの自動収穫ロボットを使って、ビニールハウスの中のピーマンの状況を下記のようなマッピングデータに落とし込んでいます。
これによりハウスの中の状態が可視化され、従来の経験や勘に頼らない営農を実現することが可能です。
環境に配慮した営農
農業DXではデータを用いた営農により、肥料や水などの資源の効率的な利用ができ、環境に配慮した営農が可能となります。
SDGsが世界的に浸透していますが、農業分野にはG.A.P.(ギャップ)と呼ばれる独自の基準が存在しています。
G.A.P.(ギャップ) とは、GOOD(適正な)、AGRICULTURAL(農業の)、PRACTICES(実践)のことで、G.G.A.P.(グローバルギャップ)は世界120カ国以上で実践されている国際基準となっています。
GLOBALG.A.P.認証は、食品安全、労働環境、環境保全に配慮した「持続的な生産活動」を実践する企業に与えられるブランド化しています。
既にイオングループでは、
農産物においては、2020年目標として、プライベートブランド商品ではグローバルGAPをはじめとする、世界食品安全イニシアチブ(GFSI※)ベースのGAP(適正農業規範)管理100%の実施をめざすことを掲げています。
イオン農場と提携農家がめざす高度な安全性
G.A.Pの取引がスタンダードになっています。
環境問題解決はもちろんですが、取引先の信頼性向上、レピュテーションリスクの低減に寄与すると考えられており、農業でも持続可能性視野に入れた営農が盛んに行われています。
こうした世の中の流れを考慮すると、環境に配慮した営農が必要になってくる未来が近いことが分かり、農業DXの必要性が感じられます。
農業DXの事例
農林水産省に掲載された事例と、AGRISTの事例をご紹介します。
大崎農園さんの事例
引用:農林水産省 農業DXの事例紹介(5)営農データの見える化による農業経営の高度化
農林水産省のDX事例紹介に、鹿児島県の大崎農園さんが取り上げられていました。
①契約販売を中心とした経営なので、安定供給する生産体系にする必要があった(課題)
➁生産計画の精度向上のため、農業経営分析支援ソフトを導入(対策)
③生産情報と気象の短期・長期予報を組み合わせて生産計画を作成(実行)
④生産計画にずれが生じた場合には、土壌分析などのデータに基づいて原因を分析し、次年度の生産計画に反映(検証)
上記のようなデータに基づいた営農により、農業経営の効率化、農作業の平準化に成功されています。
AGRISTの事例
AGRISTではピーマンの自動収穫ロボットを活用した農業DXを進めています。
ロボットはピーマンを収穫するだけでなく、ピーマンの状況をマッピングデータに落とし込みます。
更に、そのデータをLINEで通知することも可能です。
LINEデモ画面
収穫量が把握できれば、選別や出荷にかかる時間も計算しやすく、オペレーションの最適化が可能となります。
将来的には、病害虫の発見に寄与できるように開発を進めています。
以上が、農業DXについての解説とAGRISTの事例の紹介でした。
AGRISTでは、農業参入を検討している企業向けのコンサルティングや、収穫ロボットを使用した次世代農業の提案を行っております。
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