―「ラクして楽しくて幸せな農業」が広まれば、新規就農者がどんどん増えていきそうですね。
新規就農者が増えることは喜ばしいことですが、それよりも農業に限らず新たなチャレンジを始めようとする人を周りが応援してくれる社会をつくりたいと思っています。
20年前、僕が大学を辞めてアメリカに行くと言ったとき、父親に厳しく反対されました。僕の将来を案じて心配しての反応だったと思うのですが、当時は悩みましたね。同様の経験が共同創業した秦にもあって、彼は農業をやりたいと思ったときに周囲に「儲からないからやめておけ」と反対されたそうです。
僕たちは何か新しいことにチャレンジしようと、勇気を出して「やってみたい」と話す人に、「やってみなよ」と声をかけられる社会をつくりたい。AGRISTのコアバリューはこの思いが背景です。
―どうすれば、「やってみなよ」と応援する社会をつくることができると思いますか?
みんなの“思い込み”を変えることですね。
例えば、僕は10年以上宮崎県の地方創生事業に関わりました。その結果、何が変わったかというと、みんなの思い込みが変わったんです。
かつては地方移住したいと言う人に対して「なんでそんなことを?」と反応する人が多かった。地方に対してネガティブイメージを持っている人が多かったんですね。
それが今では「移住したい」と言えば、「いいよね。自然が豊かで食べ物も美味しくて」と声をかける人が増えていきました。同様のパラダイムシフトを農業でも起こしたいんです。
今、「農業は儲からない」と思っている人が多い。でも実際は儲かっている農家さんはちゃんといる。しかもテクノロジーを使えば誰でもそうなれる。だから儲かっていて幸せに働いている農家さんの姿をもっとみんなに知ってほしい。それがこれから農業を始めたい人を応援することに繋がるはずだと思っています。
AGRISTのコアバリューである「Yes, We Can」がなぜ生まれたのか?
はい。まさに「Yes, We Can」の精神です。「僕らならばやればできるんだ」と信じ続けることはとても重要だと思っています。
Microsoft CEOののサティア・ナデラが薦める本のひとつに、(スタンフォード大学心理学部教授の)キャロル・S・ドゥエックの『マインドセット 「やればできる!」の研究』(草思社)という本があります。
その本の中で「Yes, We Can」と言い続けていれば必ず実現することが科学的に証明されていると書かれていました。あれだけの巨大企業を経営するサティア・ナデラもこのマインドセットは大事にしているのだと知り、ぜひ取り入れたいと思いました。
―「Yes, We Can」のマインドセットは、だれでも習得できるものでしょうか?
だれでも習得できるものだと思います。
僕自身、後天的に身につけたものですから。先ほどご紹介したような本を読んだり、創業時からお世話になっている海野慧さんからコーチングを受けたりする中でポジティブなマインドを磨いてきました。
ポジティブマインドの維持に欠かせないのが「習慣の力」です。例えば、僕は毎朝気に入った音楽を聞きながら30分散歩をすることを習慣にしています。朝日を浴びて散歩して、水を飲んでシャワーを浴びると、セロトニンとドーパンミンのバランスが取れて落ち込んだままでいるほうが逆に難しくなるんですよ。
一度習慣化してしまうとやらないと気持ちが悪い。出かけるのが億劫なくらい落ち込んでいるときでも、習慣化しているからつい散歩にでかけてしまう。そうすれば自然とネガティブな気分から抜け出せます。
逆に散歩にすら行きたくないときは、それだけ心が疲れているときだと認識し、休養に努めます。そうやって体調やメンタルを維持する心がけも、大きな挑戦を支えるものだと確信しています。今朝ももちろん、散歩しましたよ。
「やればできる!」の精神で、これからも農業課題の解決のために、着実に一歩ずつ進んでいきたいです。僕たちの仲間となってくれる方も大歓迎です。一緒に楽しく、未来をつくっていきましょう。
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インタビュー/宮本恵理子 構成/夏野稜子、宮本恵理子