全体のまとめ
高専の教員からロボットベンチャーを立ち上げた滝本先生に話を伺いました。ロボット技術が進めば進むほどエンジニアに求められるものは精神性であるといいます。それは、圧倒的主体性をもち、単独でもやりぬく力、そして、チームみんなでゴールに向けて走る力があるかどうかの2つの能力を兼ね備えることにあります。そのために重要なのが、アグリストも大切にしている、ビジョンやミッションに共感しているかどうかに尽きるのです。
ゲストプロフィール
KiQ Robotics 滝本隆
把持対象を選ばない汎用ロボットハンドと3Dセンシング技術を用いて、人にしかできなかった多くの作業を自動化する。だれでも簡単に使える産業用ロボットを世界に広げることで、現場の省人化・生産性向上を目指す。
ロボコンの経験が今の人材育成の道に繋がっている
ーー滝本さんがロボット業界に関わるきっかけになった原体験は何ですか。
小さいころからモノづくりには興味があったのですが、一番大きなきっかけといえば、高専に所属している時にロボットコンテストに出場したことですね。
チームでモノを作る楽しさや大変さを一番始めに感じたのはその時だったと思います。
コンテストに向けて準備していく過程で、争いもありましたが、それを乗り越えてチームで一つの良いものを作り上げることで皆が大きく成長したのを覚えています。
私の恩師の言葉で、「モノづくりは人づくり」というのがありますが、まさにその通りだと思います。
そんな経緯から、ロボット業界の人材育成に興味を持ち、高専の教員になりました。
学生達に自由でチャレンジングな環境を提供し、主体性をもって行動させることが、彼らに成長を促す最大のきっかけづくりになると考えています。
そして、チャレンジングな環境の一つとして学生たちにスタートアップを進めるうちに、昨年、私自身がロボットベンチャー「KiQ Robotics(キックロボティクス)」を立ち上げました。今後はここが、学生達の活動の場のひとつになることも見据えています。
世に無い夢のようなものをつくりだす
ーーロボットエンジニアの仕事って定義が広すぎて曖昧ですよね。滝本さんはどの様に定義されているのですか。
ロボットは、「人が、この世にないものを、夢として想像した形」だと思っているのです。
例えば、お掃除ロボットは、ほんの数年前は、人の代わりになってくれる夢のロボットだと想像していましたが、今iRobotを代表する掃除代替機能を保有する機械は大衆化されていて、もはや想像していた「ロボット」とは思わないし、誰も言いませんよね。
人は、自分達が知能化したいと思う夢の対象物をロボットと呼ぶのだと思います。
そういった意味で、ロボットエンジニアはもっと先の未来を見て、いまこの時点でこの世に存在しないもの、そして人々が夢みるものを具現化する役割を担っているのです。
エンジニアが一番かっこいい!おもしろい世界をつくろう
ーー近年、世界は中国を筆頭に、高齢化を見据えて、国全体でロボットエンジニアを増やし、技術革新を加速させています。一方で、日本は遅れをとっている様に見えます。滝本さんは日本の業界全体の課題はなんだと思われますか。
日本では、エンジニアに注目が集まりにくいというのが一番の課題だと思います。
世界は、「エンジニアこそカッコイイ存在である」という世界観があり、それに伴い給与も高く設定されています。一方で、日本のエンジニアの立場は非常に低いです。
製造工程がウォーターフォールモデルであるがために、外部委託の外部委託により値段が買い叩かれ、立場も給与も低くなってしまっている事実があります。結果、優秀なエンジニアの日本離れが起き、それがロボット技術加速の遅れを招いているとも言えるでしょう。
高度経済成長時代のベルトコンベア式ものづくり最盛期の時代から、それらを管理し、取りまとめるホワイトカラーが優位となった十数年前、そしていま更なる変革が起こりつつあります。日本もいずれは、世界に追随するように、両方を兼ね備えるモノづくりのプロフェッショナルに注目が集まるようになるでしょうね。
なんでもやってみようの精神で経験をつもう
ーーロボットエンジニアに求められるものって、独創性や人と違う発想なんだけど、それに加えてチームプレイであるからこそ協調性や人格形成も必要ですよね。彼らがさらに成長するために必要なことはなんだと思われますか。
難しいですが、色々な経験を積むことに限ります。
ロボットエンジニアといっても関わる分野はハード・ソフトなど多種多様です。個々に特化した専門性は大事ですが、より高い視座、広い視野で、全方位を理解し経験していく必要があるのではないでしょうか。
特に若いエンジニアには1人で一つのプロジェクトをすべてやり遂げる能力をもちながら、みんなで作り出すチームワーク力も持つ人物が成長し続けるのだと思います。
ーーなんでもやってみたいと思うマインドを持つためにはどういうトレーニングが必要なのでしょうか。
そこでのキーワードが「圧倒的主体性」なんです。
プロジェクトを進める中で、自分が知らないことや、経験したことがないことが必ず出てきます。
それに対して、外注することも一つですが、すべて自分でやってみようというマインドをもつ事ができれば、更なる成長に繋がるのではないでしょうか。そして、そういった1人にすべてを任せて全面サポートするチャレンジングな環境を用意することが育てる側の使命だと思っています。
ーー僕自身がアグリストという会社のエンジニアを募集する上で大事にしたいのは、ゴールが共有できているかどうかだと思いました。アグリストのミッションは「テクノロジーで農業課題を解決する」ですが、それに共感してゴールを同じくする方がジョインしてくれると、そこで自然と主体的になりますよね。心のマインドセットが実は一番重要なのだと思っています。
おっしゃる通りですね。ただ、そこの内面の醸成が最も難しいと感じています。ひたすら個々人に訴えかける事しかないのかもしれないですね。スタートアップは特に自分の好きな事が社会へどういったインパクトに繋がるのかを理解した上で、好奇心を以て魂込めて主体的に動けるような人が活躍するのだと思います。
新しいものを創発するのは人である
ーーロボットがより活用される未来はどのような形があると思いますか。
僕が考えるロボットが作り出す農業の未来は、農家の方々がこれまで収穫作業に費やしていた時間を別の投資の時間に向けられる様になることだと思っているんです。そこで生み出した余裕の時間を新たな学びや刺激、コミュニケーションに充てる事ができると、クリエイティビティやイノベーションが生まれ、よりよい未来に繋がると思うのです。
同感です。新しいものを生み出すのは人であってほしいと願っています。人は自分と違うものを刺激と認識して、それらを受けることで成長するはずです。
そういった刺激しあう場所の提供や、空間を縮めるツール、情報を短期的に引き出す補足的役割をロボットやAIが担えるといいなと思っています。
ロボットにより刺激が誘発され、その結果イノベーションがたくさん起きる世界を想像するとワクワクします。未来は明るいですね。
ーー一方で、ロボットが増えて人々の余裕が生まれるということは、ロボットを大量に生産する必要があるわけで、それによりロボットエンジニアへの負荷がかかることはあるのでしょうか。
どこかが進化すれば、一方でどこかが退化するというのは常なので、ありうると思います。ただ、何が退化するのかそういう世界を考えるのも面白いですよね。更なる良い世界を考えることもロボットエンジニアの仕事なのです。
ただ、ロボットが大量に必要だからといってエンジニアだけが必要なわけではないのです。モノを作るだけでなく、資金の調達やマーケティング、営業など、色々なプレーヤーがいるからこそロボットが作られます。だからこそ、ロボットエンジニアにはコミュニケーションスキルと、プレーヤー同士での魂の共感が必要なのです。これからはもっと、作る側がより人間らしくあることが求められるようになるのではないでしょうか。
ーーロボットが活躍する時代は、人間同士のコミュニケーションが希薄な世界になっていくのかもしれないとすると、より誠実さや共感性を重要視するようになってくるということですね。
アグリストにもエンジニアがいますが、私たちは結果を重視して機械的に評価するようなことはしません。何よりもミッションに共感してくれていることが大事で、ミッションやゴールに対してみんなで語り合う時間をとったり、それに沿って行動が出来ているかなども評価システムにいれたりしています。その人の資質を見極めながらチームとして全員が主体的にワクワク動けるような組織設計をしているからこそ、全員の全力を出した最高の農業用ロボットを作っているといえます。