脱ブルース・リー経営。新・資本主義時代のコミュニティづくりの秘訣は「対話」ーAGRIST代表・齋藤潤一

2021年 インタビュー

「コミュニティ」という概念は広く、「企業」から「家族」まで多くの“組織”が含まれる。「企業的な家族」や「家族的な企業」など、定型から”はみ出した”新しい組織のかたちも増えてきた。

そんな観点からお話を聞いてみたいと感じたのは、農業の収穫の担い手不足の課題を自動収穫ロボットで解決するベンチャー企業「AGRIST(アグリスト)」だった。 2020年には開発したロボットを農研機構に販売したほか、国内のビジネスプランコンテストで8つの賞を受賞。2021年には、全国やグローバル展開も視野に入れた成長を目指すという。

そんなAGRISTのはじまりは、宮崎県新富町の農家らとの勉強会。ロボットの必要性についてのヒアリングから地域の課題を丁寧に紐解いてきた。

――地域の課題を解決するために、徹底的に対話を重ねる。
効率性と結果を重視するはずの企業が行う、一見して”非効率”な取り組み。そして、その先にあるビジネスでの成功。そこにAGRISTならではの組織づくりのヒミツがある気がしたのだ。

AGRIST代表・齋藤潤一さんに組織づくりについてのお話を聞く中で、時代に則した新しい企業のかたちが見えてきた。

人生の大半をすごす仕事 ゴールを共有できる仲間と過ごしたい

――AGRISTさんの組織体制について教えていただけますか?

齋藤:役員3名とエンジニア5名とバックオフィス2名です(2021年1月)創業時のメンバーは僕と、執行責任者として現場を動かす高橋、技術面を監修する秦の役員3名とロボットエンジニアの高辻の計4名でしたが、ここ数ヵ月で一気に増えました。

都市部でロボット開発をしていた人や地元企業に勤めていたエンジニアで、コロナによるUターンしてきたエンジニア、ハローワーク経由でジョインしてくれた人など背景は多種多様です。

動機もそれぞれで、大企業に元々いて農業の課題を解決できることに魅力を感じてくれた方もいれば、地元に貢献したいというシニアエンジニア。高専卒業後すぐにジョインしてくれた高辻は、ベンチャーで新しいロボットをつくりたい気持ちも強いみたいです。

――辿ってきたキャリアや動機も多様ですね。メンバーを選ぶうえで、大切にしていることはありますか?

齋藤:何をやるかも大事だけど、誰とやるかも最も重要だと思ってます。人生を通して考えると、家族よりも会社のメンバーと一緒にいる時間のほうが長くなるかもしれない。

限りある人生の大半の時間をともにするんだから、思いを共有できる人と働きたい。好きな人たちと豊かな人生を過ごしたいっていう気持ちが強いです。

「個から」ゴールを共有する「個の集合体」へ

――好きな人と豊かな人生を過ごしたいという点では、伴侶選びに共通する部分があるかもしれませんね。

齋藤:ただ、組織づくりをするうえでは、ビジョンとミッションとゴールを共有できているかどうかも重要だと思っています。自立した個人の集まりだとしても、ある程度のシステムやルールがないと成立しないと思うんですよ。そこが血縁関係が土台になる家族とは大きく違う部分と考えていい。

――確かに、家族がビジョンを共有し始めると、組織感が出てきますね(笑)。

齋藤:AGRISTで言うと、「テクノロジーで農業課題を解決する」というゴールに一丸となって向かえるかどうか。できるかできないかじゃなくて、やるかやらないかで決める「Yes We Can」の精神を共有できるかどうかを大切にしています。

ただ、「一丸となって」とは言いつつも、AGRISTをメンバー一人ひとりが成長できる場にしていきたい。個人が成長できる場を提供するのが、会社なんじゃないかなと思ってますね。

――会社は1つの運命共同体ではなく「個」の集団で、一丸となってバラバラに生きる、というイメージでしょうか。

齋藤:まさに。みんながまるっきりひとつになってしまうと、多様性がなくなりますよね。みんな同じ考えで、みんなで同じ方向を向いて、何かを犠牲にしてでも目標を達成する。そんな軍隊のような組織はもう通用しないと思っています。

ビジョンやミッションを共有した個の集合体が自立してゴールに向かって進んでいこうというのが、僕らの組織の在り方かなと思います。

「ブルース・リー経営」は失敗する

――でも、個を尊重しながらミッションやゴールを共有するだけでは、組織への愛着を持ち続けるのは難しいのかなと思うのですが……

齋藤:ビジョンやミッション、ゴールを決めてやっていきましょうというだけでは、絵に描いた餅でうまくいかないですよね。コアバリューを掲げて「俺の背中を見て感じろ」というような「ブルース・リー経営」ではダメで、日々の対話がないと。

――日々の対話、ですか?

齋藤:誰も孤立させない、とも言い換えられますね。孤立して感じる寂しさを放置しておくと、会社の文句になるなど、寂しさが捻れてきてしまう。対話がきちんと行き届いていれば、メンバーに寂しい思いをさせないし、個々がポテンシャルを発揮できる居心地の良い場にできるじゃないですか。これも何だか、家族に似てますね。

――家族の場合は生活があるので、寝食をともにすることで寂しさを何となく埋められる側面もある。AGRISTさんでは、そうした部分をどのように補っているのでしょうか。

齋藤:3ヵ月に1回のオフサイトミーティングをしたり、登山しながら自分の考えを整理する「ビジネス登山」に社員を誘ったり。Slackで「いいね」をまめに押すことも意識しています。

とくに大事にしているのが、1on1のランチミーティングです。社員であるエンジニア一人ひとりと、技術面での取締役や執行取締役が1対1で話す場になっています。オフィスの近くの地元野菜が食べられるカフェで実施しています。職場で普段話せないような些細や悩みを聞けるのがとてもうれしいです。

イメージ的には、「おとん、二人で飲みに行こうや」みたいな感じですね。こういうことって、しない家庭もいっぱいあるじゃないですか。

――腹を割って話す機会を設けるのが対話、という認識でしょうか?

齋藤:場を設けたうえで評価に終始しないでフィードバックすることですね。

対話って難しくて、相手が求めていないことをしても相手のためにはならないじゃないですか。自分がよかれと思ってやったことも、本人が欲していなかったら意味がない。ただ、フィードバックをもらってうれしくない人はいないと思うんですよ。

たとえば、トイレ掃除をして「偉い」という評価ではなくて、「本当にありがとう。すごくきれいになってるね。助かったよ」と伝えるのがフィードバック。

1on1ミーティングを設けている会社もありますが、そこが評価やヒアリングの場になってしまうと、機会を存分に活かせないと思います。

とはいえ、ついつい評価の話になってしまいますので、私達も「Don’t Judge」と書かれたポスターを壁に貼り、そ評価よりもフィードバックを大事にする文化や雰囲気づくりを心がけています。

「対話が結果」につながる時代

――経営者の方が率先して「対話」を提唱されるのが新鮮でした。性別で人を判断するのは良くないですが、男性ではとくに珍しいのではないでしょうか。

齋藤:今までのどの企業も対話をしたいとは思ってきたはずなんです。でも、資本主義の中で生きてきたから、結果やノルマに追われて対話できなかったと思うんですよね。

僕自身もいわゆる「ブルース・リー経営者」だったと思います。でも、自分の家族との関わりやAGRISTの前身である「こゆ財団」での経験が大きかったですね。

――どんな出来事が、ブルース・リー経営者を脱して対話を重んじるきっかけになったのでしょう?

齋藤:ビジネスロジックに当てはめて正しいからやるべきだ、という「べき論」で考えて、周りの人はそれを実装する手段みたいに考えていたんですが、それではうまくいかなかった。そういう考え方を手放し、一人一人の個性を発揮する事を考えたときに、みんなが自分で考えて動き出してくれて、事業が一気に成長しました。

たとえば「こゆ財団」で、ふるさと納税の寄附金額が飛躍的に伸びたのも、権限移譲したことによって、現場が自分たちで考えて行動した結果です。すべてを僕がやったわけではない。

この経験から、1on1ミーティングでの対話をはじめとして、個の力を伸ばすことを意識し始めました。昔は「対話より結果」だったけど、今は「対話が結果」に導く時代になったと思います。

――時代が変わった、ということですね。

齋藤:資本主義社会の中で結果を追求した企業では、粉飾決算が起きたり、社内で軋轢が生まれたりと様々な問題が勃発していますよね。直線的な成長を求める従来の資本主義はもう限界に来ている。

これからの新資本主義は、「頑張ったけどうまくいかなかったね。もう1回トライしてみよう」というように、ゴールに向かって個の集合体が有機的に変化していくのがいいんじゃないかと。

お金の部分では結果追求よりも低いかもしれないけど、長期的に見ると持続可能でより良い結果につながるのかなと思います。

「個の集合体」と「対話」

斎藤さんによって繰り返し語られた、「個の集合体」と「対話」という言葉。コロナ禍をはじめとして“想定外”の事態に見舞われることが増えた昨今、有機的に変化する個の集合体であることや、個がポテンシャルを発揮できるよう対話し、目を配ることこそ、企業が文字通り“生き残る”ためのニュースタンダードになっていくのかもしれない。

AGRISTの組織づくりの話を聞く中で、そんな風に感じた。

取材・文=佐々木ののか

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